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東京家庭裁判所 平成7年(少ハ)400022号 決定 1995年12月21日

少年 MK(昭51.1.20生)

主文

本人を平成8年7月19日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

第1申請の要旨

本人は、平成7年1月13日、東京家庭裁判所で中等少年院送致の決定を受け、同日に神奈川医療少年院に収容されたものであるが、平成8年1月19日をもって満齢により収容期間が満了となる。

本人は、平成7年5月1日に2級の上、同年8月1日に1級の下に進級し、さらに、同年11月1日には処遇の最高段階である1級の上に進級して現在は出院準備教育過程の教育を受けている。本人は規律違反等あったものの現在では農芸科の作業にも強く興味を示し、出院後は外でできる職業を選択する意思を有している。ところで、本人は、以前、中等少年院出院に際して、保護者が引き取りを拒否し、本人自身も勤労への意欲がでないまま、再び、働かずに金銭を得ようとする生活に戻り、現金の窃盗事件を起こして神奈川医療少年院に入院することになった。神奈川医療少年院としては、平成8年1月18日を希望日として関東地方更生保護委員会に仮退院の申請をする予定で、本人に対しては、仕事に対する姿勢を育て、自信をもって新しい仕事にも積極的に取り組めるように指導することとしているが、本人の保護者は、出院後の本人の引き取りを拒否しており、出院後は宇都宮保護観察所管内の更生保護会「財団法人尚徳有隣会」から「受け入れ可」の回答を得ているため、本人はそこに帰住する予定である。そして同更生保護会からは少なくとも6か月は保護観察期間を必要とするとの連絡を受けているので、期間満了の翌日から平成8年7月19日までの6か月の収容継続を申請する。

第2当裁判所の判断

1  本件は、本人が、交際していた女性に連れられて同女の両親の家に行き、宿泊したが、同女の両親から説教を受けるなどしたため、同女を連れて遊びに出ようと考え、そのための費用を入手するため同女の父親から現金を窃取したという事案であって、本人は、平成7年1月13日、東京家庭裁判所で中等少年院送致の決定を受け、同日に神奈川医療少年院に収容された。

2  本人の少年院内における生活態度は規則違反で院長訓戒を受けるなど適応するまでに紆余曲折もあり、精神障害に関する投薬治療も受けるなどしたこともあったが、本人は、平成7年11月1日には処遇の最高段階である1級の上に進級し、現在はおおむね良好に推移している。しかし、神奈川医療少年院でかなり教育効果があがっているとはいえ、なお、本人には、他人に対する依存性が強く、他面、疎外されるのではないかという不安があって、人の目を引くような行動に出たり、葛藤状態に陥ったときには攻撃性を自分に向けてしまう傾向があることは否定できない。したがって、本人には、特に、対人関係面での指導や少年院を出院した場合に円滑に対人関係が持てるような環境を整えておく必要性が認められる。ところで、本人の保護者は、本人の引き取りを拒否しており(本人への愛情がないからではないが)、帰住先として上記更生保護会が予定されているが、出院後の本人の感情の安定をはかり、就職先の指導等社会に出るための準備を行うには、専門家による助言・指導が是非とも必要である。

3  以上の事情を総合考慮すると、本人が少年院出院後に安定した社会生活ができるようにするためにはなお指導期間を要するので、収容を継続すべきである。そして、本人は、平成8年1月19日をもって収容期間が満了となるところ、保護観察の期間を含めて約6か月の期間が必要であると考えられるから、収容継続の期間は申請どおり平成8年7月19日までとするのが相当である。

よって、少年院法11条4項、少年審判規則55条により主文のとおり決定する。

(裁判官 市川太志)

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